― オデッサの影、革命の赤、そして届かぬ恋の行方 ― (17-18歳の執筆作品)
Story Synopsis(あらすじ)
【序章:オデッサの生い立ちと届かぬ恋】
ボリシェヴィキの革命家ミーシャ・チェルノフは、ウクライナの港町オデッサ出身。ウクライナ人の母(ヴィラ・チェバン)と、ユダヤ系の「半分ネコの怪人」(イサーク・フェルドマン)との間に生まれた非嫡出子であり、自らも夜の闇を見通す目と鋭い身体能力を持つ「半分ネコ」の異形であった。母が露土戦争へ向かう軍人イゴール・チェルノフに媚びを売って婚姻関係を結んだため、「英雄の未亡人とその息子」を名乗っていたが、母の精神的不安定さから幼少期は各地を転々とし、家庭環境に恵まれず軽い愛着障害を抱えて育った。17歳で家出し、ボリシェヴィキの革命運動に身を投じる。
ミーシャには、幼馴染のユダヤ系青年ヴィーチャ・ダヴィドヴィッチへの密かな恋心があった。しかしヴィーチャはストレートであり、彼への思いが届くことはない。 やがてメンシェヴィキへ転向したヴィーチャは、モスクワ名誉市民である工場主ヴァシリー・ソコロフの養女アーニャ・ソコロワと恋に落ちる。嫉妬に胸を破られながらも、ミーシャは愛するヴィーチャの幸せを願い、二人の駆け落ちを密かに支援するのだった。
【第一幕:アーニャの過去と逃避行】
アーニャはかつて孤児院で育ち、12歳で工場主ヴァシリーに引き取られた。ヴァシリーの病死後は、その弟ティモフェイの家に預けられていたが、ティモフェイの妻でタタール人女優のグルナーラから陰湿ないじめを受けていた。唯一の心の救いは、ギムナジウムに不登校気味だった義妹ダーシャとの友情であった。 また、アーニャは内陸育ちでありながら「海のほとりの小屋で、魔法使いが木のおもちゃを作っている」という夢を頻繁に見ていた。
その頃、ペテルブルクでは連続殺人鬼「バーバ・ヤガー」の噂が広まっていた。現場を血の芸術(アート)に変え、強盗も働く残虐な殺人鬼。そしてどういうわけか、バーバ・ヤガーは予告状でアーニャを指名していた。ミーシャとダーシャは残された資料から、アーニャの実の両親が「バーバ・ヤガー」に殺害されたのではないかと推測する。
秘密警察(オフラーナ)のサディスト警官ニキータ・ニキチッチ・ニキーチンと、その部下で頓馬なクズマ・クズミッチ・クズミンに追われていたミーシャは、ヴィーチャとアーニャの安全のため、二人をペテルブルクへ逃がす(駆け落ち)計画を実行。ダーシャは二人の手助けをし、ミーシャの不器用な励ましによって再び学校へ通う勇気を得る。
【第二幕:ペテルブルクの「探偵団」誕生】
同志トーリャの伝手でペテルブルクに潜伏したミーシャたち。そこでミーシャは、ひょんなことから頓馬な警察官パーシャ・スミルノフに「名探偵」と勘違いされ、相棒扱いされてしまう。 ミーシャは嫌々ながらも、以下の変人揃いの面々と「ペテルブルク探偵団」を結成させられる羽目になる。
- キリル・ヴォルコンスキー: 変人数学者で元挿絵画家(かつて有名画家ピョートル・オルロフとコンビを組んでいた)。孫のリョーヴァと同居。
- マーシャ・スミルノワ: パーシャの妹で工場労働者あがりのメイド。熱心な正教徒で、ミハイル・ポポフ司祭一家(妻ヴェラ、息子ディーマ)と親しい。
- ソフィー・ユスポワ: 上流貴族のお調子者少女。父イリヤの大親友がキリルとアファナシー・ベロフ。ベロフ家の長女ドゥーニャは兄弟が政治犯で就職難だったためソフィーの家庭教師をしていた(後にマーシャの紹介でポポフ司祭の息子ディーマと結婚。ドゥーニャの弟の一人がミーシャの同志トーリャ)。
ミーシャはゲイでありヴィーチャへの想いを隠しつつ、ネコ特有の夜目が効く高い身体能力と知性を活かして捜査を牽引。「バーバ・ヤガー」の情報を探るべく探偵団を利用するが、ボリシェヴィキの過激な本業で姿を消すことが多いため、彼が書き残した謎のメモを手がかりに探偵団が推理を進めるスタイルが確立していく。
【第三幕:事件の激化と正体の露呈】
ダーシャが突如「バーバ・ヤガー」に誘拐される。義兄のセミョーンが探偵団に助けを求めにやってくるが、そこにたまたま現れたミーシャと顔を合わせ大喧嘩になる(「あの時の男か」「こんにちは、お坊ちゃん」)。 この衝突によりミーシャがボリシェヴィキの革命家であることが探偵団に発覚。密告と逮捕を恐れたミーシャは探偵団から姿を消し、過激な革命運動の闇へと潜伏する。
一方、警官ニキータの妻ヴェロニカは、同僚の妻ゾーヤ・クズミナのもとを訪ねる。ゾーヤは「タタール人の養子を迎えた」と言い、黒髪の少女(ダーシャ)を見せるのだった。
【第四幕:血塗られた過去と「バーバ・ヤガー」の真実】
探偵団の捜査により、事件の根底にある数十年前の狂気が明かされる。
- フランチェスカとズビグニェフの過去: 没落シュラフタ(ポーランド貴族)の娘フランチェスカと、そのいとこヤン=ズビグニェフ(アーニャの実父)。親露派だったフランチェスカの家で育ったズビグニェフは、画家を目指しパリへ留学したフランチェスカを追いかけ、そこで彼女と同居していたカトリーヌ・ベルナール(アーニャの母)と恋に落ちて結婚する。
- 狂気への堕落: 画家のテオと懇意だったフランチェスカだが、愛するいとこズビグニェフをカトリーヌに奪われた絶望と狂気から豹変。ヴァシリー・ソコロフと結婚・離婚した後は、名前を「ゾーヤ・クズミナ」と偽り、自己陶酔型の連続殺人鬼「バーバ・ヤガー」として暗躍し始めていた。
- 一人二役のカラクリ: フランチェスカは普段、男装して秘密警察の「クズマ・クズミッチ」を演じ、同時に妻の「ゾーヤ・クズミナ」としても振る舞っていた(ヴェロニカが訪問した際は、いとこで顔の似たズビグニェフが「クズマ・クズミッチ」役を演じることで二人同時に存在させていた)。
- アーニャの夢の正体: カトリーヌの死後、ズビグニェフはフランチェスカの追手から逃れるため、幼いアーニャを連れてラドガ湖畔の小屋に隠れ住み、木のおもちゃを作って与えていた。これがアーニャの見る「海のほとりの魔法使い」の記憶の正体だった。その後、危険を察した親友ヴァシリーがアーニャを「引き取る」形で匿っていたのだった。
【クライマックス:シベリアの雪深き教会での結集】
探偵団は「ゾーヤの家」へ突入しダーシャを救出。しかし、ミーシャは警官ニキーチンに捕縛されてしまう。 ヴィーチャとアーニャは、投獄されたミーシャを追いかけ、シベリアまでの同行を決意。しかし、フランチェスカは「クズマ・クズミッチ」として追っていた革命家ミーシャが、最愛のいとこの娘アーニャの恋人(※正確にはヴィーチャの恋人)であることを知り、衝撃と過去の葛藤に錯乱。すべての証拠と関係者を消し去るため、最後の「完全犯罪」を遂行せんと動き出す。
ズビグニェフがポポフ司祭にすべてを懺悔していた、シベリアの吹雪に閉ざされた孤独な教会。そこに、すべての運命が吸い寄せられるように結集する。
- ポポフ司祭、ドゥーニャ、ディーマ
- 懺悔に訪れたズビグニェフ
- 脱獄を果たしたミーシャと、それを追う宿敵ニキーチン
- ミーシャを追ってきたヴィーチャとアーニャ
- アーニャを保護しようと駆けつけたペテルブルク探偵団(パーシャ、マーシャ、キリル、ソフィーたち)、ダーシャ、セミョーン
- そして、全員を殺戮し「作品」に仕上げようと銃を構える狂気の魔女フランチェスカ(バーバ・ヤガー)
閉ざされたシベリアの白銀の世界。ミーシャは自らの「ネコ」の異形と身体能力を全開にし、ヴィーチャとアーニャを守るために暗闇を駆ける。
【エピローグ:それぞれの明日へ】
錯乱の果てにフランチェスカは捕縛され、ズビグニェフはその悲しき最期を見送る。ポポフ司祭は罪深き人々に静かな赦しを与え、探偵団の面々はシベリアの旅を満喫しながら無事にペテルブルクへと戻っていく。
ミーシャは、自分が命懸けで守り抜いた愛するヴィーチャとアーニャが無事に結ばれた姿を見届ける。胸を刺す切ない嫉妬と、それ以上の深い愛を抱えながら、ミーシャは二人を伴ってフィンランドの国境を越える逃避行へ。
国境の冷たい夜風の中、ネコのような鋭い瞳で夜空を見上げるミーシャ。 届かぬ恋と革命の赤を胸に秘めた彼の、新しい人生が再び走り出すのだった。
Character Profile(登場人物)
- ミーシャ・チェルノフ(Misha Chernov)
- ボリシェヴィキ / 非嫡出子 / ゲイ / 半分ネコ。
- オデッサ出身。ヴィーチャへの届かぬ恋を抱えながら、その類稀なる身体能力と知性で「探偵」として、そして「影の守護者」として暗躍する。
- ヴィーチャ・ダヴィドヴィッチ(Vitya Davidovich)
- メンシェヴィキ / ユダヤ系青年 / ストレート。
- ミーシャの親友。アーニャと恋に落ち駆け落ちするが、狂気の渦に巻き込まれていく。
- アーニャ・ソコロワ(Anya Sokolova)
- 工場主の養女。幼少期に「海のほとりで木のおもちゃを作る魔法使い(実父)」の夢を見ていた。バーバ・ヤガーに狙われる標的。
- フランチェスカ / ゾーヤ / クズマ・クズミッチ
- 没落貴族の女。狂気に惹かれ、秘密警察「クズマ」と妻「ゾーヤ」の一人二役をこなしながら、連続殺人鬼「バーバ・ヤガー」として暗躍する惨劇の元凶。
- ペテルブルク探偵団
- 警官パーシャ、元挿絵画家の数学者キリル、貴族少女ソフィー、熱心な正教徒メイドのマーシャたち。ミーシャのメモを頼りに事件を追う賑やかな面々。
Author’s Commentary(作者解説)
この作品は、初期に構想していた本格ミステリの二重生活トリック(一人二役)や探偵団の群像劇に、現在のミーシャの切ない感情や異形要素を落とし込んだ決定版です。
「叶わない恋だと知りながら、相手の幸せのために闇を駆けるミーシャ」の健気さと、ネコ特有のしなやかな美しさ。 シベリアの閉ざされた教会で繰り広げられるクライマックスの緊張感をぜひお楽しみください。